Precios Love



 北魏(ほくぎ)時代末期。
 洛陽(らくよう)に遷都した京師(みやこ)で宮廷は完全に漢化した。
 浸透していく仏教に溺れ、文雅の道を極めようとした。
 忘れられた北辺の鎮護軍の不満をよそに――。


1.婁昭君


「あたしはまだお嫁になんか行かないわ。あたしが納得するくらいのいい男が現れない限りね」

 それが、平城(へいじょう)の名門の家の娘・婁昭君(ろうしょうくん)の最近の口癖だ。
 幼い頃から可憐で聡明な昭君は、成長してから多くの男に妻として望まれるようになった。祖父の代から武の功績を立てた強勢な家の生まれなので、彼女は名族に所望されている。というのに、一向に彼女は応と言わない。

「一体、おまえは何が気に入らぬというのだ? おまえを望む男達は、この家柄からいっても相応な者ばかりなのだぞ」

 彼女の兄・婁壮(ろうそう)が呆れて言う。
 昭君の父・婁内干(ろうないかん)は彼女が幼い頃に功を奏することなく病死した。今は、彼女の兄・婁壮が家長を務め、武の一族の者として着々と力を貯え始めている。
 寡婦となった母と、まだ年少な弟・婁昭を護り、妹の昭君を教育してきたのは他でもないこの兄だ。年頃を迎えた昭君を、彼女に恥じぬ婿に嫁がせるために、婁壮は心を尽くしてきた。
 が、彼の心尽くしを、妹はことごとく粉砕してきた。婁壮としては、小言のひとつも言いたくなる。

「あたしを妻にしたいと押し掛けてくる男って、みなカスばかりじゃない。見込みのある男なんてひとりもいないわ」

 歯牙にもかけず、辛辣な妹に、婁壮は眉間を押さえ、首を振った。

「おまえ、男達のなにをみているのだ!? 評判も富も申し分のない、秀でた男ばかりではないか!」

 昭君はせせら笑う。

「あ〜〜ら、兄上こそ、男達の何を見ているというのかしら? あんな、腕力と財力を鼻にひっかけた、脳みその足りない男達の、どこが秀でているというの?」

 彼女の毒舌は、少しも収まらない。兄は言葉に詰まった。ここぞとばかりに、昭君は釘を刺す。

「とにかく、あたしはあんなちっぽけな男達なんか、願い下げよ! 兄上も馬鹿ばかりつれてきたら、絶交だからね!」

 鋭く言い渡すと、昭君は身を翻し、部屋から抜け出した。



 ――本当に、あたしが結婚してもいいと思うくらいの男って、この世にいないものかしら……。

 奥向きのさらに奥にある私室に戻った昭君は、侍女の娃児(あじ)の差し出した白湯を飲みながら、心のなかで呟いた。
 昭君としても、絶対結婚したくないわけではない。己の心に響く男が現れたら、自ら望んで嫁いでもいいとさえ思っている。現実がなかなか難しいだけだ。

「ねぇ、娃児。この世はつまらない男しかいないわけじゃないわよね?」

 娃児に聞いているように見せ掛けて、その実昭君は己に言い聞かせるためにそう言う。
 心得ているらしく、娃児はにっこり笑った。

「ええ、なにもご心配なさることはございませんわ。きっとお嬢様のお心に添えるお方もいらっしゃいます」
「そうよね……」

 ふたたび昭君は湯を啜る。
 と、室の戸が叩かれた。娃児が扉を開くと、弟・婁昭(ろうしょう)が立っていた。彼女が招くより先に、婁昭は室内に入ってくる。

「姉上、また兄上と一戦やりあったんだって?」

 生意気盛りな婁昭は、姉の機嫌も介さずに物を言う。娃児に勧められた椅子に、どっかりと座った。

「何の用よ。からかいにきたのなら、ただじゃおかないからね」

 昭君は弟を睨むが、婁昭は怯まない。

「どうせ、いつものように『あたしは絶対にお嫁に行かないのよ――っ!』って喚き散らしてたんだろ?」
「余計なお世話よ」

 こめかみがひくついてくる昭君と反し、婁昭はいとも優雅に娃児から差し出された白湯を口に含んだ。未だ十を少し超したばかりだというのに、いっぱしの大人のようにふるまう。昭君としては、それが面白くない。

「大体、姉上は高望みすぎるんだ。勢力があって、資財があって、健康な男なら、それこそ願ったりじゃないか」

 解ったような口をきく弟に、昭君は攻撃の口を開いた。

「自己満足の上に胡座をかいているような、頭の緩い男達が、願ったりですって?
 腕力があっても知恵がなければ、ただの木偶の坊よ。人間防壁くらいにしか使えないわ」

 昭君は勝ち誇ったように言う。が、婁昭はにっ、と笑った。訝し気に昭君は眉を潜める。

「ふ〜〜ん、姉上はそういう男しかこの世にいないと思ってるんだ。
 じゃあ、わたし達のおじいさまや曄君(ようくん)姉の旦那はどうなの?」

 言われて、昭君は詰まった。
 昭君達の祖父・婁提(ろうてい)は北辺の勢力家で、武力を有している上に知性を兼ね備えていた。持ち前の侠気でもって人と接し、自然と彼の周りには侠客が集った。異民族との境に近い平城の護りを硬め、功績を立てた婁提は魏朝から認められた。そのことによって、然るべき地位に封ぜられ、周りからも一目置かれた。
 祖父の影響からか、父・婁内干は若くして亡くなったから官職に就くことはできなかったものの、兄・婁壮は出世の道を着実に歩み始めている。
 娘達も、祖父のおかげで幸福を掴んだといえなくもない。
 姉・曄君は強悍な豪族の若者に嫁いだ。夫となった人物は武勇に優れていただけではなく、知恵者である上に温和で、人付き合いの良い質であったので、姉の結婚は僥倖に他ならない。
 そして、妹の昭君も多くの強族に求められている。
 まさに、祖父の七光りである。

「まぁ、それは認めるわよ……。だから、あたしも諦めているわけじゃない。
 本当は、あたしだって知性も教養も、武力も兼ね備えた男に出会いたいのよ」

 すると、婁昭はとんでもないことを言って退けた。

「いないことは、ないかもね」

 昭君は、驚いて瞠目する。

「本当……!?」
「いることはいるけれど、なんていうか――わたし達の家に比べたら、その人はかなり見劣りするというか……。人間的には、是非とも知り合いになりたい人かも……うぐっ!」

 婁昭が言い終わるのを待たず、昭君は弟の胸ぐらに掴み掛かる。

「だ、だれっ!? どこにいるのっ!?
 それより……はやく、あたしに会わせなさいっ!」

 姉の余りの迫力に、婁昭はただただ頷いた。



 その人物は、平城に駐屯している懐朔鎮(かいさくちん)の兵卒のひとりである高歓(こうかん)というらしい。
 高歓は懐朔鎮の隊長をしている尉景の義弟にあたり、片腕となって働いているという。
 落ち着き払った態度や、隙のない挙動。その上、財を投げ打ってまでも士を重んじるという侠気の持ち主で、人を引き付ける力を持っていると、魅せられたように婁昭は語った。

「賀六渾(がろっこん。高歓の字)殿は、満月の夜は好んで城上で執務を執られているんだ。だから、今宵も同じようにしておられるのではないかな」

 さいわい、その夜は満月で、好天である。
 誘われるように、昭君は弟を案内人にして平城の城郭に向かった。
 昭君は裾の短い上着に袴を履き、防寒のために身体を毛皮で包んでいる。髪はただ簡単に編んで頭上に髷を造っているだけと、いかにも簡素ないでたちだ。
 整った顔だちをしているから、化粧を施したら必ず目を引く美貌なのに、と婁昭は勿体なく思う。仮にも、男に会いにいくのに、女として装わないのは不利なのに、と。
 まったく、女としての自覚のかけらのない昭君を望む男達が、婁昭には不思議に思えた。
 すでに、夜半を過ぎ去っているので、平城の街中は人がまばらである。静けさだけが辺りを取り巻いている。歩いて数刻、家々から遠ざかり、やがて城郭に辿り着いた。
 平城は、魏と柔然(じゅうぜん)との国境になる。大きな隔てとして長城がそびえたっているが、騎馬集団を率いて何時柔然が攻め入ってくるか解らない。だから、国境線に近い平城を護るため、六つの鎮獄隊(ちんごくたい)が交代で常駐している。高歓が在籍している懐朔鎮はその中のひとつだ。彼は、今宵が当直の任務の日なのだろう。
 忍び足で姉弟が城上に向かう階段を上がっていく。扉を開けた婁昭の背後から昭君は石畳の先を覗き込んだ。
 すらりと背の高い男が、皎々と輝く月明かりを受けて、佇んでいる。後ろ姿からは判じがたいものの、書物を読み耽っているようだ。

「……なんだか不真面目ね。見張り役なのに本なんか読んでるわ」

 小声で昭君は呟く。不真面目、というのに彼女は少々がっかりしていた。

「まぁ、夜は長いからね。長い時間を無為に過ごすのなら、本でも読んでいた方がましなんだろうね」

 婁昭は弁護する。

「仕事を放り出して?
 自分のしなきゃいけないことをせずに、人にはいいように見せ掛けるなんて、要領がいいのね」
「そうかな。危険が迫っていないんだから、別にいいと思うけど」

 が、昭君の舌鋒の鋭さは少しも緩まない。

「馬鹿ね、本に熱中していたら危険も見過ごすに決まっているじゃない。あんたも、あんなたいしたことない男に惚れ込むなんて、まだまだ子供ね」

 姉に貶され、婁昭は機嫌を損ねた。

「そうやって、人の一部分だけを見て判断する姉上も、たいしたことないじゃないか」

 かちん、と昭君はいきり立つ。

「なんですって!?」

 昭君の怒鳴り声が、空に派手に響き渡る。当然、城上の人にもはっきりと解るほどに。彼は驚きの余り、手にしていた本を取り落としてしまった。

「誰だっ!?」

 腰に帯びた剣に手を掛けながら、高歓は振り返る。婁昭の後ろから顔を覗かせている昭君と、真正面から目が合ってしまう。
 精気を孕んだ瞳は炯々と光り、端整な容貌に力強さを与えている。きりり、と引き結ばれた唇は知性を備え、どこから見ても、卑しさなど感じさせない。
 男と目が合った瞬間、昭君の身体に戦きが走った。まるで、男の眼光に打たれたかのように。
 始めは高歓に睨まれ竦んでいた婁昭だったが、昭君の様子のただならなさに、我に返った。

「……姉上?」

 婁昭の問いかけに、抜け出していた昭君の心は、瞬時にして身体に引き戻される。ふたつの凝視する視線を感じて、昭君は思わずその場から逃げ出してしてしまう。縺れる足で、一気に階段を駆け下りた。婁昭の己を呼ぶ声を聞く余裕もなかった。

 ――あれは、あの男は……。

 ひとり、大路を走る昭君の脳裏は錯綜している。
 秀でた形容に包み隠された伶俐さを感じさせ、何者をも跪かせてしまう威厳を有していた男。その眼差しに潜んだ、不屈で不羈な精神。

 ――きっと、あれが、あたしの望んでいた男なのだわ……!

 昭君は直感していた。




 息咳切らせて戻ってきた主人が言い出した言葉に、娃児は絶句してしまった。

「娃児、いまから高賀六渾殿のもとに行ってこれを渡してきてほしいの」
「こ、これを、ですか……!?」

 驚きの余り、容易に言葉を告げられない。
 無理もない。昭君が持ち出したのは、彼女の全財産だった。父親の形見である純金の首飾りや金剛石を鏤めた鈿、翡翠や瑪瑙、様々な宝石を惜し気もなく使った装身具。それらは全て、昭君のために両親や兄が送ってくれた代物だった。普通の人では到底お目にかかれないものばかりである。
 昭君のとんでもない言動に、娃児はくらくらしてきた。

「お、お嬢様、どうかなされたのですか……?
 これは、お嬢様の大切な財産です。どうか、考え直して下さいませ……!」

 未だに棚のなかを探している昭君に、弱々しが確固とした語調で娃児は呟いた。
 くるり、と昭君が振り返り、微笑みを浮かべた。今までの彼女なら絶対にしそうにない、甘く、蕩けそうな笑みである。娃児はどきり、とした。

「娃児、やっと見つけたの。あたしが待ち望んだ人」
「――えっ!?」

 思考の範囲を軽く通り越した昭君の告白に、娃児は頓狂な声を張り上げる。慌てて昭君は侍女の口を塞いだ。

「ち、ちょっと! あまり大きな声を出さないで! 兄上に知られたらまずいの……」
「……どうしてでございますか?」

 小声に戻して、娃児は囁く。

「お嬢様は、その方が良人になられる方だとお思いなのでしょう?
 真諦様(しんたい。婁壮の字)のお許しがなければ、ご結婚は難しいことだと思うのですが」

 昭君はにっこり笑った。

「だから、早い目に行動を起こしたいのよ。あの人は、あたしの家に比べたら、どちらかというと雲泥の差があるくらい貧しいの。
 要は、反対される前に既成事実を作っちゃおうという算段なのよ。結納金をあの人が受け取ったら、あたしはあの人の宿舎に乗り込むつもり」
「お、お嬢様……」

 娃児の声が引きつる。大家の令嬢である昭君が、まるで身売りでもするかのような行動を思い付いたので、侍女は内心呆れていたが、返す言葉もなく主人の命に従った。



 娃児が高歓のもとに向かったのと入れ代わりに、婁昭が第に戻ってきた。帰るなり、婁昭は湯を啜り息を整えた。彼は興奮ぎみに頬を紅潮させ、目を輝かせている。

「まったくひどいよ、姉上。わたしを置き去りにして。あとでわたしがどれだけ大変だったか解ってるの?」

 告げる言葉とは裏腹に、婁昭の機嫌はすこぶる良い。昭君はにこやかな表情でしきりに頷いていた。

「最初は賀六渾殿に詰問されたのだけれど、わたしの名前を告げたら、わたしのことを知ってるって……。向こうも、わたしと話をしてみたかったって。……あ、兄上ともらしいけれど」

 婁昭は慌てて兄のことも付け足す。彼は滑らかに言葉を運ぶが、目の前の姉の変化に気付いていない。

「やっぱり、思った通りで、あの人はかなりの大人物さ。さっき読んでいた書物、あれって兵法書だったよ。かなり難しそうだった」
「そうでしょうね。あの人なら、難解な書物でも読みこなしてしまいそう」
「って……姉上?」

 先程とまったく言の違う姉に、婁昭は胡乱な目を充てる。

「さっき、あんたが言ったことは正しかったわ」
「はぁ?」
「あの人こそ、知力と武力を兼ね備えた、あたしの理想の男なの」

 婁昭はきょとん、とした。

「あ、姉上は賀六渾殿を貶していたじゃない。どういう風の吹き回し?」

 言われて昭君は笑う。

「だから、あたしの目が節穴だったのよ。あの人以上にあたしが望む人はいない」

 胸を張って、自信を持って言う昭君。婁昭は呆然と眺めている。
 しばらく、婁昭は姉の綺羅とした瞳を見つめていたが、やがて静かに吐息した。
 あれほど、男など見る気配がなかった昭君が、やっと男に興味を示したのだ。それは、別に悪いことではないと婁昭は思う。だから、あえて、姉の意気込みを止めるつもりはなかった。

「……で、姉上は賀六渾殿と結婚したいの?」
「そうよ」
「賀六渾殿はいい、と言うかな?」

 案じ顔で婁昭が呟く。

「言わせてみせるわ。もう、そのために動いてるもの」
「……えっ!?」

 にっ、と笑った昭君に、婁昭は声をひっくり返らせた。



 数刻時をおいて戻ってきた娃児だったが、しかし成果は何もなかった。侍女は行きがけと同じ荷物を抱え昭君の目前で項垂れている。
 予想だにしない展開に、昭君は椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。

「あ、あんた、どうしてあの人を説得しなかったの!?」

 娃児の襟を掴みかけた昭君の手を、婁昭が食い止める。娃児は身を竦めた。

「あの方は、たった一度だけ会っただけで将来を決めるのは愚かだとおっしゃいました。
 容貌や印象で決めるのではなく、もっと相手を観察されたほうがよい、とも……」
「そんな……」

 昭君にとって、高歓の言葉は心外だった。
 彼女からすれば、高歓が彼女の求婚を断るなどあってはならないことだった。多くの男から望まれながらも、それら全てをすげなく振ってきたので、彼女のなかに女としての優越感が生まれたとしてもおかしくはない。そんな彼女の望みを、高歓はつれなく断ったのだ。昭君の矜持はずたずたに引き裂かれた。

「まぁ、当たり前の答えだよね。会ったといっても、まるで覗き見みたいだったし、そんな相手をいいように思うわけないだろうし」
「……うるさいわね!」

 面白そうに言う婁昭を昭君はねめつける。
 堪えた様子もなく、婁昭は続けた。

「姉上も、これで姉上に振られた男達の気持ちが解るんじゃない?
 姉上は何でもないことのように男達を振ってきたけれど、振られた男達はきっと傷付いたはずだよ」

 婁昭は姉の傷心を抉ってくる。
 昭君は強く唇を噛むと目を瞑り、深く吐息した。
 本当に、これで終わらせていいのか――。彼女は自問する。
 高歓という男は一筋縄ではいかない。第一印象で昭君はそれを感じ取っていた。彼の瞳に過った知性が彼女の勘を裏付けしてくる。
 そういう昭君自体、求婚してくる男達をためしていたのではないだろうか? 拒む振りをして、その実、男が引き下がらず食い下がってくるのを望んでいたのではないか。男が否応なく己を恋の直中に引きずり込んでくるのを待っていたのではないだろうか。

「――あたしは、引き下がらない」

 堅い決意を声に滲ませ、昭君は目を開いた。

「姉上?」
「あたしも、あの人の言う通りだと思う。たった一度だけ会っただけで将来を決めるのは愚かだとね。
 でも、あたしの直感が、あの人を諦めてはいけないというの。きっと、あたしが男達を試していたように、あの人もあたしを試しているような気がする。だから――あたしは、諦めない!」

 昭君は凛然と言い放つ。婁昭は打たれたように姉を見入っていた。
 時が留まっていたのはほんの瞬時。昭君は身を翻して扉を開け飛び出した。はっとして娃児は戸口を見、婁昭の腕を掴み揺さぶった。

「菩薩(ぼさつ)さま、お嬢様がっ!
 早く追い掛けて下さいませっ!」

 が、婁昭は緩く笑み、首を振る。

「……まったく、姉上は思い切りが良すぎるよ。だから、適わないのだけれど。
 僕は姉上がどこまでやるか見てみたいね」
「菩薩さま!?」

 思わず叫んだ娃児の口を塞ぎ、婁昭はにっ、と笑った。

 深夜、人気のない大路を、昭君は馬で走る。
 こころのなかに望みをかけて――。




後編に続く


*       *       *      *      

 一回目の言い訳

 さいらさんのご好意に甘えて前後編に分けさせてもらったものの……。ズタボロですね(汗)。
 自分でもこの小説、イマイチ自信がなかったりします。何だか何を書いているのか解らなくなってきたし……。やべ。

 さて、この小説は「北史」「北斉書」を基本資料として書かれていますが、婁昭君(婁太后)の家庭のことは少しアレンジを加えて書いています。
「北史」「北斉書」の神武婁皇后伝では、婁太后が結婚したころ、彼女の両親は生存していたとあります。が、婁太后の父・婁内干は在世中に官職に就かなかったとあるため、独断と偏見(爆)で彼女が結婚するときには父は既に亡くなっており、史書に書かれている父の役割を婁太后の兄で婁叡の父・婁壮にさせることにしました。
 そして、婁壮にも一言。婁壮は「北斉書」婁昭伝中の婁叡伝には婁拔、外戚伝では婁壮と名前がふたつあります。本来なら、「北斉書」の伝は散逸して「北史」から写されたものなので「北史」記述のほうに従った方がよかったのですが、この小説を書きはじめた当初にあまり調査が足りなかったため、音感で婁壮にしました。これに関しては、反省すべきですね(汗)。

 では、この続きの後編を読んで下さったら、さいわいです。

長谷川彰子



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この小説は、さいらさんのサイト「転倒坂うぇぶ学問所」の二周年記念企画に投稿したものです。

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