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Lost Sanctuary――失われた楽園――




 かつて、地球上に水と緑に満ちた美しい大陸があった。太陽の恩恵を余すところなく受け、色とりどりの鳥や蝶が舞う楽園があった。肥沃な大地が生む豊かな産物をほしいままにした国があった。争いがなく、人々の笑顔が途切れることない時間があった。

 人々は大陸を楽園と呼んだ――。



 今日も太陽が燦然と照り輝いている。
 半身を泉に浸しながら、アシェラは手をかざす。指の隙間から日をすかし見た。
 日は霊、万物の源。大いなる神の威光。淀みなく慈愛を地の人々に注ぐ。
 ――あのお方は、今も皆人のために祈り続けているのだろうか。
 アシェラは一年に数日だけ逢う慕わしい人を思い描く。
 彼は聖なる大地・ムーの王。麗容を誇るヒラニプラの主。神の威霊をただひとり受ける太陽王(ラ・ムー)――。天高く聳える太陽の塔に籠もり、唯人には姿を見せぬ。屋根のない頂上で神の光を溢れるほどに浴びる。光のなか神と交わり、神の令を受ける。神に一番近い波動を持つ者。
 アシェラが彼とまみえる機会を持てるのは、水の巫長だったからだ。
 この世の誰よりも尊い人に、彼女は憧れた。男女を超えた美しさをもつ男を、恋慕とも憧憬ともつかぬ念で見ていた。同じ巫として誰よりも秀でている太陽王に畏敬を抱いていた。
 アシェラも水の聖霊と交感する力をもっている。とくにその能力が優れていたため、水の巫長という立場にいる。
 水の聖域の禊場で滝に打たれ、アシェラは霊力を研ぎ澄ます。胸の気の扉を開く。髪から肩から指先から爪から霊気が染み込んでくる。水の霊気が、巫女の身体に充ちる。
 薄く目蓋を開けた彼女の目に、木々の葉と明るい空が差し込む。普く人々が神の慈しみを受けるためムーの建造物にはすべて覆うものがない。
 アシェラは諸手を拡げる。日の神光が薄衣を通して巫女を包んだ。

 泉から出たアシェラの肢体を、巫女達が布で拭く。
「今日は何人くらい待っておられるのです?」
 純白の麻衣に身を包み、長い帯を締めアシェラは側仕えの巫女に聞く。
「はい、今日はケンテ様に、ウォン様、カーディ様が参じていらっしゃいます」
「また?」
 髪を整え、アシェラは巫女を振り返る。
 ケンテ・ウォン・カーディはムーの東の要・水の聖域の端近にあるサンテレイの貴族である。サンテレイはムーの都市のなかでも規模を誇る街である。貴族達はムーの政治にも介入し、奢侈を多いに好む。
 三者は一週間と開けず、巫女の癒しの術を受けにアシェラのもとを訪ねていた。
 眉を寄せ、アシェラはため息を吐く。
「……で、誰が先に聖堂に入っているのです?」
「あ、ウォン様が」
 陰が見える巫長の声に、見習いの巫女は不安を見せる。
 巫女の面に、アシェラは苦笑し言う。
「大丈夫ですよ。急に何かが動くわけではないから」
 美貌の巫長が浮かべる柔和なほほ笑みに、巫女は見惚れ、頷く。
 ――たしかに、今は何も起きないだろう。今は。
 巫女達を従え、水の聖堂に向かうアシェラは、一抹の胸騒ぎを覚えていた。
 ――ラ・ムーが仰っておられた……神がお怒りになっていると。
 先の月にまみえた時、王は憂慮していた。人々が神に対する畏敬を忘れている、と。
 それは、アシェラの目にも見えていた。

 アシェラが室の戸を潜ると、金糸の縫いとりの施された紫衣を纏うウォンがいた。籐で編まれた椅子から立ち上がり、彼は巫女の白い手を取る。
「おぉ、巫長……!」
「ウォン殿」
 精悍な褐色の顔が、アシェラの透き通った美しさに恍惚とした笑みを浮かべる。
「お会いしたかった」
 ふくよかな女の手を骨張った男の指が掴む。
 アシェラは手から手へ伝わってくる相手の気の色を読む。微かに、黄色の地に濁った赤色が交じっている。
 巫の術のなかには、人のオーラを読むものがある。相手の状態を手っ取り早く読むためである。人のオーラには魂の質を現す地の色と、それに交じる感情の色がある。
 濁りのある赤は、色欲を意味していた。
 巫女はさらに眉間を寄せる。
「ウォン殿、あなたはわたくしに何を求められているのです。
 あなたが抱いているものは、巫女に対するものではない」
 瞳に真摯な色を浮かべ、アシェラはウォンを見つめる。
「この世には、あなたほど美しい女はいない」
 巫女は柔らかく男の手を解く。ウォンから離れ、祭壇に祭られた水鏡を覗き込む。手をかざし、霊力でもってアシェラは望みのものを映す。
「……あなたの数多の奥方たちが、あなたを待っています。あなたは彼女達のもとに通わず、胸のうちの煩悩を吐き出さずにいる。
 わたくしはあなたに何もして差し上げられませんよ」
 水皿から手を離すと、アシェラは同じく壇上に置かれている水瓶を取り、杯に酌む。筒の口に手を添え、霊気を込める。
 杯を手渡すため向き直ったアシェラは、間近に迫るウォンに息を呑む。男の逞しい腕が巫女を抱き竦めた。
「おやめになって」
 毅然とした声で、アシェラは抗う。冷静に男を振り解こうとする。が、ウォンの力は弛まない。
「巫長よ。今一度、あなたの霊気でわたしの熱を冷まして下さい」
 ウォンはアシェラの顎を持ち上げる。巫女の真っすぐな黒瞳が厳しく光る。
「それはできません。
 わたくしが何をしようと、あなたの魂の欲は尽きない。
 あなたが望むのは、わたくしを支配すること。
 巫女を支配することは、神への冒涜になります」
 アシェラはウォンの想いを危惧する。
 水と風、火と土の元素は神が作り出したもの。巫女は元素に属するため、神に仕えるものである。
 七つの頭をもつ蛇――神・ナラヤナは遠い空の果てから降りてきて、大地と様々な元素、生物――人間など――を生み出した。なかでも水・風・土・火は東西南北の要として大地の坩を押さえることを任じられた。北には土、西には風、東には水、南には火――それぞれの地にはそれぞれの元素に感応する者が詰め、元素を活性化させるため祈りを捧げている。男女問わずいる能力者を、人は巫と称した。複数いる巫を束ねるため、最も霊力の強い者が巫長に選ばれる。巫達の祈りにより大地の均衡が取られ、人間は神に課せられた生の誓い――調和――に従い生きていた。
 聖地にいる巫たちは聖霊を宿し、こころを病んだ人々に浄化と癒しを与える。手から手へ、口から口へ――様々な手法で巫は霊気を人に伝える。重篤の場合は、身体を結合することもある。これは巫の聖なる術、情を通わす余地などない。霊気を漲らせた巫の身体は唯人とは異なり、生殖する力がない。聖霊の気が命の力を上回ってしまう。ゆえに巫は恋情なく肉体を人に与える。
 人々は神を畏怖していた。ために、奸(よこしま)な気持ちを持たず巫と交媾した。巫とは治癒のために関係し、生殖は人々入り乱れて行なわれた。意識に任せ、側にいた者と思いつくまま子孫を生産した。人々の間には和が保たれ、争いなど生じる隙もなかった。
 が、いま、人々の秩序が大きく崩れてきている。争うことなく共存できた部族が、互いを競うようになった。華奢・贅沢を好み、浪費が増えた。人々の間には妬心ができ、自身の欲によって人を踏み躙るようになった。――神のこころに、背くようになった。
 ――あぁ、ラ・ムーの怖れが、わたくしの足元にまでにじり寄ってきている。
 アシェラは杯を強く握ると、強引にウォンの腕を解く。驚く彼の顔面に、聖水を浴びせた。清らかな気が、ウォンの周りに散る。
 はっと我に返ったように、彼は巫女を見る。アシェラはにっこりと笑った。
「今日は、これでお帰り下さい。予備の聖水を巫女に用意させます」
 巫長、とまだ呼ばう男を置き、巫女は聖堂から出た。
 一月前、彼女はこころに呪いを掛けられたウォンを癒した。彼に掛けられた呪は強力で、アシェラは交合することにより呪いを浄化した。それ以来、一週間と開けずウォンは通ってくる。うわごとのような熱情をアシェラに与える。ケンテやカーディも同質の経緯である。彼らはアシェラを、巫女ではなく女として見ている。アシェラにはそれが忌まわしい。
 ラ・ムーの怖れは、現実になるかもしれない――アシェラはいい知れぬ予感に、身を震わせた。

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 アシェラは暫らく、行籠もりと称して潔斎の室に入っていた。治癒や浄化を求める人々の相手は、他の巫に任せた。貴族達ね相手は、次長である巫女・ネイラがしている。アシェラはどちらかというとはかなげで優しい容姿を持っているが、次長は鋭く妖艶な女である。どこか、俗な雰囲気を持っていた。
 精神統一のため滝に打たれているアシェラのもとに、不機嫌な顔色を張りつかせているネイラがやってきた。
「まだ行を続けられるおつもりですか。一体何に気を掛けられておいでです。
 ケンテ殿達はあなた様でないと嫌だとおっしゃってますよ。
 はやく浄化を済ませて下さい」
 激しい水音の反響にネイラの声が消されそうになる。余計に大きくなる声にアシェラは煩わしく目を瞑る。
 ネイラには解らないのだろうか。彼らを蝕む我欲の存在が。捨ててはおけない禍々しいものが。身体を交わせば交わすほど、それは膨らむ。浄化など出来ない。それが解らないのか。アシェラは唇を噛む。
 そうそう、と改めて思いついたように、ネイラは口を開いた。
「ラ・ムーも行籠もりだとか。『太陽の頂』から退かれたそうです」
「ラ・ムーが?」
 目を見開き、アシェラは次長を見る。
「どうして、まだ四月と経っていないわ」
 アシェラはうろうろとパインの葉に目を向ける。
 太陽王は一年に一週間ほど祭祀場『太陽の頂』から下がり、潔斎所に籠もる。日の霊力は鋭く肉体を蝕む。身体を鎮めることが必要だった。
 先の邂逅から数えて、まだ六月ほどだ。早すぎる。
 滝壺からあがると、アシェラは身体を拭くのも忘れて側付きの巫女に告げる。
「今からヒラニプラに参ります。支度を」
 問題は多いが、何より異変があった太陽王を見舞うのが先決。
 アシェラは濡れた薄衣のままサンダルを履き禊場を出た。

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 大陸の各都市と首都・ヒラニプラは水路で結ばれている。
 大陸一栄えた都市で、放射線上に引かれた水路は祭祀場『太陽の塔』を真中に据えた王宮に集約している。森を抜けた北方の地平線上には、美しい円錐型のサフォン山から左右に連なる山並みがあり、遠く左方に目をやれば海を隔てた国から往来する船舶が泊まる港がある。
 一週間かけて、アシェラと数人の巫、彼らの護衛達は葦船に乗り都に到着した。聖霊の息吹の通う水は事故を起こす事無く一向を運んだ。
 太陽王の統べる都は、日の霊気に満ち溢れている。眩しいが暑くはない陽光が地を照らす。
 船から降りた巫女達は都の中心にある王宮に向かう。石造りの『太陽の門』を潜ると、オリーブやパパイアが茂る庭園に囲まれた王と執政者達が住まう大理石の羅城がある。見上げると、天高く屹立する『太陽の塔』が伸び上がっていた。
 常時は、太陽王は塔の最上部『太陽の頂』に詰めている。下界に降りる折りのほうが少ない。が、今は養生のために宮の一角にある、森林の潔斎場にいる。アシェラ達は真直ぐ王の仮寓居に足を進める。
 髪を覆う被り物を外した水の巫長を確認し、王の侍者が頭を下げる。政教合一した大陸にあって、巫長は太陽王に次いで尊貴な立場にいる者だ。アシェラは労るように微笑む。
 振り向くと、巫長は巫達に告げる。
「さぁ、あなた方は水の気が不足している人々に慈悲を分けて差し上げなさい」
 はい、と頷き巫達は潔斎場をあとにする。アシェラは森の奥へと歩む。
 滝の音が清澄に響いている。大陸が出来たときから絶えることのない不思議な泉が、潔斎場にはあった。
 アシェラは水音を心地よく耳に受け、王の潔斎の室に近づく。と――。
「アシェラ」
 若々しい男性の声に呼ばれ、アシェラは滝に目を向ける。
 水に濡れた真白な麻の浄衣を、伸びやかな痩身に貼りつかせた端麗な男が滝壺から彼女を見ていた。懐かしさと慈愛を目に浮かべ、鵄色の眼を巫女に注いでいる。
「まぁ、ご無理をなさってはいけませんわ、ラ・ムー」
 驚いて、長く流した裾を持ち上げアシェラは滝に駆け付ける。太陽王の侍者がラ・ムーの身体を拭う。
「近々そなたが来ることは、オリハルコンの鏡で見ていたので解っていた。
 が、霊の熱の強さに身体が持ちそうになかったので、そなたが到着するのを待てず泉に入っていた」
 笑って言う王の様子に不安を抱きながら、アシェラは聞きいる。そんな彼女の背後にも、王付きの巫女が女物の薄衣を手に控える。気付き、アシェラは王を見上げる。
「では、わたくしも水の霊気を養います。今暫くお待ち下さいませ」
 低頭する水の巫女に、太陽王は緩い笑みを残し潔斎の室に入る。
 太陽の巫女に手伝ってもらい、アシェラは浄衣に着替える。
 太陽王に付き従う聖職者はすべて太陽の巫と呼ばれる。日の波動に感応する者で、あまり数はいない。太陽の霊気は多分に人に害を齎す。太陽の霊気は人の命の炎の源。人の波動を活性化させもするが、反面灼熱の霊気を持つので過剰に体内に霊気を入れると内側から身体を灼いてしまう。ために、太陽の巫は希少であり、彼らは肉体の保存のため霊力をを頻繁に取り込まない。かわりに、数少ない太陽の巫のなかから特に霊力の大きい者が太陽王となり、毎日欠かさず日に祷りを捧げる。特異な霊威があるゆえに、創造神『ナラヤナ』・父なる太陽『ラ』・母なる大地『ムー』の代理人である王を、民は大陽王――ラ・ムーと称した。
 切れのよい冷たさを湛える泉に足を浸すと、アシェラは歩み寄り頭から瀑布を浴びた。泉に国花である可憐な蓮華が浮かぶ。アシェラは蓮の花弁に触れる。頭頂や指先から水の霊気が差し込んでくる。アシェラはすべての魂の扉を開き、霊気を並々と体内に満たす。
 アシェラは振り返り、巫女に問う。
「ラ・ムーは一体どうなされたのですか。
 いつもより、お身体に日の霊力が満ちるのが早いではありませんか」
 水滴がアシェラの亜麻色の髪に絡む。脆い玉が柔らかな身体の線に沿って落ちる。水の巫長の優美な姿を見、淡い笑みを湛え巫女は泉から出た彼女の世話をする。巫女の唇は寡黙に閉ざされたままだ。アシェラは訝しむ。
 彼女が沈思する間に、巫女はアシェラを身体の線が透けて見える薄衣に着替えさせた。ユーカリの涼しげな香りがする森林を歩み、潔斎の室の前に着く。巫女は頭を下げると、椰子で出来た室の扉を開けた。
 籐の寝台に仰臥しているラ・ムーが上体を起こす。アシェラは礼を取った。
「お待たせして申し訳ありません。今すぐに始めますゆえ――」
 祭壇の水瓶から水を汲み、杯に手を添え霊気を込める。それを手渡すと、王は一気に飲んだ。
 アシェラは目の端に王を捉えながら、身に纏っている衣を脱ぎ落とす。一糸纏わぬ姿になり寝台に腰掛けると、アシェラは何も身に付けていない男の薄い胸に手を添えた。掌から胸の扉目掛け、霊気を注ぐ。
 一年に一週間ほど、太陽王は灼熱の霊気を冷ますため、水の巫長と肉の交わりを持つ。方向の異なる霊気により、熱を冷ます。日と水の気は正反対のものである。突然癒しの術を始めると、水の霊気により王の身体が急激に冷える。水の霊気が込められた聖水を体内に取り込むことによって王の肉体をならしてから、本格的に霊気を注入する。
 横たわる王に覆い被さり、アシェラは胸に頬を当てる。彼女の細い指は王の項を彷徨っている。
「本当だわ。どうなされたのですか、いつもは一年はもちますのに――」
 顔を上げ、アシェラは眉を寄せてラ・ムーを見つめる。王は巫女の頬に手を添え、口づける。アシェラは唾液に霊気を乗せるため集中する。王は水の霊気を貪る。
「話はあとだ。先に熱を冷ましたい――」
 自ら巫女のたおやかな肢体に腕を絡める王に、アシェラは苦笑する。彼の望みを叶えるため、術に専念する。
 相手は誰よりも美しい人。この世の誰よりも尊い人。この国にとって欠かせない人。だから、彼の熱を冷まさせる役を担わされた己は光栄だと思う。どのような眼差しよりも優しい瞳を受け、力強い四肢が触れることに喜びを感じている。己に出来るのなら、どんなことでも応えたい――アシェラは身体の芯から霊気を絞り出す。すべてが王に伝わるよう、集中する。
 初めて会ったのは、彼女が巫女の見倣いをしていた十二の年だった。ラ・ムーは二十四才、太陽王となって三年しか経っていなかった。十年に一度五の月に行われる『太陽の祭』に参列するため、先輩の巫達とともにアシェラはヒラニプラを訪れた。盛大で厳粛な祭礼で、一年でもっとも強い太陽の霊気を受けるラ・ムーが巫や臣達に祝福を授けていた。ラ・ムーとはいえ、巫である。身内に太陽の霊気を宿し、手や唇、身体から相手の身体へ神の守護を伝授していた。大臣や風・土の巫もそれぞれ受けており、先輩達も王の霊気を身に受けた。が、アシェラはまだ幼かったので、当時の巫長は彼女が太陽王の霊気に耐えうる霊力をもっているか判別するまで、無理はさせられないと渋った。この時の己をじっと見つめていた王の笑顔が、アシェラは忘れられない。
『未だ無理か、巫女として相応しいかどうか、わたしが試そう』
 言って、ラ・ムーは反対する巫長を強引に言い聞かせ、アシェラを『太陽の頂』に上げた。彼は幼い巫女の肉体に己の肉体から太陽の霊気を授けた。
 思えば、アシェラは実際の巫としての術をラ・ムーに教えられたことになる。行為の最中、どの時宜に霊気を注入するか、相手の霊気を掴むにはどうすればよいか。王は辛抱強く、優しく新米の巫女に伝授した。ラ・ムーは水の巫長にアシェラの巫女としての霊力の強さを保証し、そのおかげで彼女は現在の地位にいる。先の巫長から太陽王を癒す役目も同時に譲られ、今こうして交合している。
 ある限りの霊気をラ・ムーに注ぎ終わったあと、アシェラは疲れ果てて王の腕の中一時の眠りに落ちた。汗の滲む巫女の白い額に、王は愛情を込め接吻した。

 目覚め、霊気が抜けた気怠い身体を起こした水の巫長に、太陽王は聖水の杯を差し出す。身体を起こすのさえ億劫だが、王に醜態は見せられない。アシェラは霊気を養うため水を飲むと、太陽の巫女が用意してくれた麻の衣を手早く身に付ける。髪を纏めるアシェラを、ラ・ムーは慈愛の眼差しで見ていた。
 気付き、アシェラは頬を染める。
「そんなに見ないで下さい……恥ずかしい」
 こころの奥底まで見通そうとする目線に、寝台から降りたアシェラは籐の椅子に座り、俯く。
「心配しなくとも、今のわたしには透視する力はない」
 ラ・ムーは苦笑いする。え? とアシェラは顔を上げた。
「力がないとは――どういうことですか?」
 おかしい。太陽王はその霊力により人のこころを読むことができた。今、太陽の霊力で身体が弱っているとはいえ、読心は容易な術のはずである。
 巫女の真摯な目に、ラ・ムーは溜め息を吐く。
「近頃――日の霊力が増してきている。が、神の意思がどこにも感じられない」
「それは――どういう……」
 いいしれぬ予感。民人の腐敗の姿とラ・ムーの予言……。暗い不安がいや増す。
「人民は神への畏敬を忘れている。奢に溺れ、欲望のためには他人を踏みにじる。争いを起こし、勝利せんと欲する。神が託した調和の願いを忘れている――。
 わたしは――太陽王は人民の願いにより立っている。人民が望んだからこそ、神がわたしに力を与えたのだ。現在の日の霊力は、神の怒りだ。民意が神の想いから離れ、神の怒りと苦しみが伝わってくる。神の怒りの激しさに、唯人の身であるわたしが、耐えられるわけがない。わたしの身は衰えていく一方だ」
「そんなッ――!」
 思わず、アシェラはラ・ムーに取りすがる。
 王の身体の衰弱は、神の怒り――。それでは、どれだけ王に霊力を注いでも、助けることなど、出来はしない。いや、それよりも、神の怒りはそれほどまでに膨らんでいるのか――。
 恐ろしさに、アシェラは震える。そんな彼女の手の甲に、柔らかく暖かな霊気が注がれる。はっとして目を上げた巫女の唇に、太陽の霊気が注がれる。甘美な温もりに、アシェラは陶然とした。
「大丈夫だ。わたしがいなくなっても、替わりの王が立つ。民人が神を忘れぬ限り、この国は不滅だろう」
 深い慈しみを込めて、ラ・ムーは巫女の黒瞳を覗き込む。
 ――気休めなど、言わないで下さい。
 口には出さず、アシェラは絶望の声を洩す。
 サンテレイの貴族の荒廃を、アシェラは身を以て知っている。ヒラニプラの王宮に入るまでに、清らかではない思惑でもって肉体を売る男女も見かけた。粗品を法外な値で売る商人もいた。執政達も、まるで王などいないかのような振る舞いをしている。
 何より、アシェラは彼が太陽王でなくなるかもしれない、という事実に痛みを感じていた。太陽王を含め、巫長は霊力が衰えると次に力の強い者に位を譲り渡さねばならない。そうでなければ、神の霊力を受けることは出来ない。神への祷りを至上とするこの国において、聖職者に対する目線はどの職業より厳しかった。
 アシェラは苦しみを隠し、微笑む。
「大丈夫ですわ。今感じられる王の力は揺るぎないものです。衰えなど、感じられません」
「アシェラ――」
 王は彼女を抱き込む。色素の薄い波打つ髪を愛しげに撫でる。
 ――わたくしはあなた様が王だから、このようにして逢えるのです。わたくしは、王であるあなた様をお助けしたい。
 アシェラはラ・ムーを尊敬し、憧れる。彼が身体に触れる時、この上ない幸せを感じるときがある。他の者が王となったとしても、このような感情を持つことがあるのだろうか――。
 巫女は他人に恋情を抱かない。生殖を伴わない霊気に身を包む巫女は、子孫を残す感情とは無縁。が、アシェラはどうしようもないほどの慕わしさを胸に秘めていた。
 ――わたくしも、穢れているのかもしれない。ウォン殿とまったく変わらないかもしれない。神の怒りに――触れるかもしれない。
 アシェラは、目尻に浮かんだ涙を必死に隠した。

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 アシェラ達水の巫はラ・ムーが快復する目処を一月と定め、首都ヒラニプラに滞在した。その間、出来るだけより多くの人民を癒すよう王宮と街を歩く。ナーカルという歩き巫達以外、都には水の巫がいない。四大元素のナーカル達はそれぞれ修練を済まして聖域を出、流浪しながら人々を癒す。彼らの中には、海を越えた別天地に足を伸ばしている者もいる。
 人の身体のなかには四大元素の気が調和して存在している。動作するとき、気を利用する。状況によってはひとつの気を集中的に消耗することもある。そのような人々を助けるため、聖域の巫達は年に数回各地を巡る。ムーの七大都市に滞在する時間は特に長い。各都市の実力者に術を施し、政を助力する。ヒラニプラに居る間は太陽王と謁見し、大臣達と面会する。
 今回アシェラが首都を訪れた目的は、王に水の気を注入することである。他の者にまで術を施すと体力的に限界がでてくる。ヒラニプラ行きに付き添ってきた巫女アンシャルと男巫アッタルを伴い、執政・メダプの居室に入った。
 骨張った肉付きに脂ぎった照りを見せ、メダプは巫達に席を勧める。男は舐めまわすようにアシェラを眺めていた。
「いや、一層浮き世離れした美しさを醸されるようになられましたなぁ」
 喜色を浮かべる執政に、アシェラは内心鬱陶しく思う。
 巫長となって5年、首都を訪れる度にこの男の浄化だけはアシェラ自らしている。太陽王を除き、この大陸で一番身分が高い。ラ・ムーは神の声を聞くことを専らとし、実際の政治はメダプや数人の大臣が行っていた。身に宿る神の意思を受け取った王は執政に国の采配を告げる。それに基づき、執政は政治を行う。侍女が差し出したミント茶を飲みつつ、アシェラは目の前の男の由無し事を聞いた。
「――で、巫長。王の状態はいかがなものか? 酷い有り様なのか」
 アシェラの身体に真近く寄り、メダプは尋ねる。彼女が身に付けている百合の香が男の鼻先に入り込む。男はくんくんと鼻を鳴らした。アシェラは目を反らすふりをし、日光を遮断するシダの葉を見る。
「今すぐに本復される、ということはありませんわ。ですが、わたくしも全力を尽くします。必ず、職務に復帰なされます」
「そうか……」
 メダプは俯く。こころなしか、アシェラの目に彼の表情が残念そうに映った。彼女は眉を寄せる。
 その時、若い侍者が応接間に入って来、メダプの耳許で囁いた。
「なんだと、インクバレーが戦闘準備に入っていると?!」
 執政の言葉に、アシェラは目を剥く。インクバレーはムーの七大都市のひとつである。ヒラニプラとインクバレー、サンテレイとジャゴール、ルルイエにティセルア、メンフィスの七つの都市が、この大陸のなかで特に威容を誇っている。大陸の北西部にある首都ヒラニプラと南にあるインクバレーは至近にある。近頃、インクバレーは自治権を獲得しようと躍起になっていた。
「うむむ……他の臣どもには、もう伝えたのか?」
 鋭い目つきで、メダプは侍者に詰問する。否、という相手の反応にメダプは唸った。とりあえず報せにいけという主人の命に、侍者は小走りで室を出た。
「……戦になるのですか。この大陸が、王のもとで暮らしている者たちが」
 アシェラの上擦った声に、メダプは我に返る。厳しい面持ちの巫長の手を取り、男は安心させようとした。アシェラは丁重に相手の手を解く。
「王に報告しなくともよいのですか」
 アシェラの問い掛けに、メダプは首を振った。
「現在の王に、神の意を聞くことができますか? 神の霊気に蝕まれているというのに」
 言い訳するように、作り笑いしてメダプは告げる。
「それより巫長。わたしも身の内に汚れを溜めてしまいました。術を施してはいけませんかな?」
 メダプは羊皮紙でできた帳を指し示す。奥は寝所になっていた。アシェラはさらに眉を顰める。
 この緊急時に、そのようなことをしている場合か。先程手を触れて感じた具合では、メダプはまだ浄化せずとも普通に生活できるはずだ。浄化ではなく、己と身体を交わすのを目的にしているのではないか。アシェラの胸に嫌悪感が渦巻く。
 にこりと笑顔を浮かべ、アシェラは立ち上がる。背後の席に座るふたりの巫に目配せする。
「メダプ殿。わたくしは今回、王に癒力を注ぐためにこちらに参りました。王への施しも大変だというのに、あなた様の浄化までは身体がもたず出来ませんわ。
 替わりに、こちらのふたりに相手をさせます。どちらかお選びくださいませ」
 巫長はメダプにアンシャルとアッタルを紹介する。執政はいくらか落胆したようだが、やがてアッタルの手を掴んだ。
「こちらにしよう。たまには、男巫の施しを受けるのも悪くはないな」
 好色そうな面持ちで、メダプはアッタルの大腿に手を這わす。アシェラはアッタルに謝罪の眼差しを送る。彼は苦笑いで応えていた。
 メダプが男巫の腰を抱き寝所に消えたのを見届けると、アシェラはアンシャルとともに執政の室から下がる。王の潔斎所の前まで来て、巫女に向き直る。
「あとで、アッタルにわたくしが待っているから、潔斎所まで来るようにいいなさい」
 巫女は頷くと、巫長の前から退いた。アンシャルが離れるのを見送って、アシェラは禊場に向かう。こころの憂さを祓いたかった。
 アシェラはメダプがおぞましかった。大陸の文化では、男巫が男に術を施すのはよくあることだ。ラ・ムーも男女となく施しを授ける。性愛に関しても、同性の愛に寛容である。アシェラがいやらしく感じたのは、メダプのなかにある色欲である。彼は聖なるこころではなく巫を求めた。今頃、アッタルはメダプの我欲に蝕まれているはずだ。巫は清く透明である。それだけに、他者の念に干渉されやすい。
 禊場に控えていた大陽の巫女が浄衣を差し出す。アシェラはそれに着替え水のなかに入った。滝に打たれ、先程の醜悪な念を打ち消す。
 ふと水面に目をやると、ゆらゆらと映像が揺らめいている。アシェラは手を翳す。水面は瞬時にして水鏡になる。
 ――アシェラ、疾く来よ。
 輪郭が定かではないが、ラ・ムーだ。己を呼んでいる。背後の情景は潔斎の室ではない。抜けるような青空の、大陽の頂だ。
 アシェラは身内に水の霊気を取り込むと、麻の衣を纏って水瓶を抱え、大陽の塔に向かった。


 縦に伸びた大陽の塔の頂は、螺旋階段で繋がっている。延々と長い階をアシェラは登っていく。吹き抜けの塔内に涼やかな風が渦を巻く。巫女の白い裳裾を軽やかに捲り上げる。風の聖霊が水の巫長に敬意を払い力を貸してくれているのか、重くない足取りで頂上までの道程を辿る。階段の横には大陽王と大臣が会議を持つ室や賓客の控えの部屋があった。天空が間近に見え、太陽の頂を真上に控えたとき、王の寝所に控える侍者がアシェラを呼び止めた。
「王はこちらでお待ちです」
 アシェラは頷き、王の室に入る。
 ラ・ムーは難しい顔付きで、白金に輝くオリハルコンの鏡を凝視していた。
 オリハルコンは、ムーと比肩するほどの文明を誇っていたアトランティスで発明されたものである。鋭い鏡の輝きは大陽の光を受け燃えるように輝いている。柔らかな金属で加工しやすく、装飾品の基材としてよく使われる。アトランティスからのおもな輸入品がオリハルコンだった。数十代前のラ・ムーが遠見のために、アトランティスの技術者に頼み特別に作らせたものだ。が、そのアトランティスは100年前に謎の天変地異で壊滅してしまった。地震によって火山が爆発し、大津波が起きたという。地震や津波の余波は、この大陸にも届いた。僅かに生き延びた人々が難民として各都市に生活している。
 ラ・ムーはこの鏡を通して、先程アシェラに語りかけて来た。今は違うものを見ている。
「何が、映っているのですか。――?!」
 覗き込んだ彼女の目にも、王が目にしていたものが飛び込んでくる。裸に衣を引き掛けただけのメダプと、大臣達である。アッタルによる浄めが終わったのか、応接間にて一同が密談をしている。
『何としてでも、インクバレーを制圧せねばならん。我々も、兵を集めねば!』
『王の託宣を待っている暇はないぞ。我々で決断してしまえ!』
『そうだ、戦いだ――!』
 アシェラの背筋に戦慄が走る。この者達は、主人である王に命をいただかずに戦いを始めようとしている――。
 巫女はラ・ムーの険しい面持ちを見入る。王は嘆息した。
「――これが、この国の堕落の姿だ。神は我々に調和を願っておられた。が、インクバレーの者も、ヒラニプラの臣も不和を願っている」
「そんな……」
 やはり、ラ・ムーの予見とおり、この世は破滅に向かうのか――。アシェラは身が凍り付くのを感じる。そんな彼女の緊張を解かしたのは、王の腕の温もりだった。深い懐にい抱かれ、アシェラは口づけられる。アシェラは予期していない接吻に、霊気を込めるのを忘れていた。王の気にも、大陽の熱を感じられない。何も混じらない吐息は、甘露のようだった。
「……何をなさるのですか。霊気を高まらせないと、互いに身体を傷めてしまいます」
 頬を染め、アシェラは俯く。
 日と水の気は相容れない。巫はひとつの気に卓越したものである。対極にある気を防御もなく受け入れれば、身体が害されてしまう。口づけとて、油断できない。が、霊気のない口接に身体的苦痛を感じなかった。ただ甘美な痺れが走っただけだ。
「――そうだな」
 慈しみを込めた微笑みを浮かべ、王は裸の胸に羽織っていた外套を脱ぎ、柘榴石(ガーネット)や橄欖石(ペリドット)・黄玉(トパーズ)の装飾のあるオリハルコンの胸飾りを外す。
 アシェラは黙って杯に聖水を汲んだ。

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 ラ・ムーに癒しの術を施すと、アシェラは急いで潔斎場に走った。アッタルに待てと言っていたのだ。王に呼ばれ大陽の塔に行ったが、彼女はずっとアッタルのことを気にしていた。
 既に日は落ち、月光が森を照らしている。月明かりの僅かな明りだけで、アシェラは滝に向かう。控えの巫女は下がっていたが、案の定アッタルは待っていた。白色の掘りの深い顔立ちが月光に照らされ、陰影が出来ている。
「ごめんなさい……兄様」
 息を切らせ、アシェラはアッタルの前に立つ。はにかんだ笑みを浮かべ、アッタルはアシェラを抱き締めた。
 アッタルは元来アシェラの先輩にあたる。ラ・ムーに巫の術を授けられてから、彼がアシェラに術の訓練をしていた。巫の術を就達したのは彼のおかげである。水の聖域で一番近しく存在したアッタルをい、実の兄妹ではないが、アシェラは今でも親しみを込めて『兄様』と呼んでいる。
「メダプ殿に酷いことをされたでしょう? わたしの身代わりに……本当にごめんなさい」
「いいさ、おまえのためなら。おまえはラ・ムーに霊気を施していたのだろう?」
 アシェラは頷き、彼を潔斎の室に誘う。潔斎の室はラ・ムーの所有である。が、王は彼女に優しい。幼い彼女に巫としての術を教えた彼は、彼女が幼い時から変わらず弟子と接するように愛情を注いでいる。アシェラも、そんなラ・ムーに甘えていた。
 マングローブの木を組んで造られた室の中に、アシェラは男の手を引いて入る。
 籐の寝台にアッタルを座らせると、アシェラは自ら彼に接吻する。吐息に霊気を乗せる。アッタルは彼女が送る霊気を受け止めていた。
「わたくしのためにメダプ殿を身に受けてくれたのだから……わたくしが、兄様を浄めて差し上げる」
 アシェラはアッタルの衣を脱がせると、彼を横たえ自分も身に付けているものを脱いだ。
 同質の霊気が互いに通う。巫同士が霊気を補完しあうこともよくあることだった。己のためにメダプに抱かれたのだから、当然のようにアッタルを浄める。そのために潔斎場に呼んだ。
 アッタルの肉体を受け入れながら、不意にアシェラは祭壇に安置されたオリハルコンの鏡を目に止める。遠見の鏡は、すべてラ・ムーの室の鏡に繋がっている。王が覗けば、どの情景も見ることが出来る。アシェラの内部に鋭い戦きが走る。空間を隔てていながらも、ここは王と繋がっているかもしれない――否、この世のすべてはラ・ムーと繋がっているのではないか。ラ・ムーと、彼に依る神に――。
アシェラは動きを止めた。
「――アシェラ? どうしたんだ?」
 アッタルが訝しむ。はっとしてアシェラは誤摩化した。
「な、なんでもないの」
 言うが、行為を続けることが出来ない。アシェラは妙な罪悪感に襲われている。そんな彼女から何かを察すると、アッタルは自らアシェラに霊気を注ぎ始めた。
「に、兄様ッ!」
 アッタルは戸惑うアシェラに言い聞かせる。
「いい、悩まなくても。おまえは誰も裏切っていない。王のことも、そのまま感じるままでいればいい。どんなことになろうと、迷うな」
 アシェラは目を見開く。見透かされている――胸の内の想いを。彼女は首を振る。
「そんなこと、出来ない――! わたくしは巫長でいる資格など、ない」
 涙を拭うアシェラの中に、アッタルは霊気の塊を叩き付ける。泣く巫女を彼は腕に抱き締めた。
「おまえは――、そんなに神が、無慈悲だと思うか?
 神はすべてを見通している。王のことも、おまえのことも。
 おまえの想いは、堕落ではない」
 アシェラは涙を拭う。彼の耳にもラ・ムーの予言は伝わっているはずだろう。神が怒っていると――。民の退廃を悲しんでいると。それでも、気休めにそう言ってくれる。
 たとえ己が巫女でなくなったとしても、彼は巻き込まないでおこうと、アシェラは硬く決意した。


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